いつもと同じ景色、いつもと同じ場所。

だけど少しだけいつもよりキラキラ輝いて見える。


憂鬱だった学校生活が"楽しみ"になってきた。

会いたい。早く晴人に会いたい。

私は息を弾ませながらいつもより早く学校へと向かう。


「…って、また早く着きすぎちゃった…」

舞い上がりすぎたな…そう思いながら熱くなった頬を隠しつつ下駄箱へ向かう。


「林さん」


下駄箱で靴を履き替え、教室へ向かう階段を登ろうとした時ふいに声を掛けられた。


「あ…川瀬さん…」

おはよう、と挨拶をすると、彼女からも心なしかいつもより元気の無い声でおはようと返ってきた。


気まずさから、お互い目を泳がせながら立ち竦んでいる。


「…少しだけ、時間いいかな?」

困ったように眉を寄せながら微笑んでそう言ったのは川瀬さんだった。

私はうん、と短い返事をし彼女の後ろを付いて行きすぐ近くのベンチへ二人で腰掛けた。

教室棟からは反対側の場所なので朝の登校時間にこの辺りを通る生徒は少ない場所だ。


「昨日は…ごめんなさい。変な所見せて、しかも一方的に黙ってて…なんて」

彼女は一息つくと話し始め、頭を下げて両手はスカートを強く握りしめている。

長いふわふわの髪であまり表情は見えないが、伏せた長い睫毛が震えているのがわかった。


「そんな!顔上げて!大丈夫、私誰にも言わないから…」

私の言葉に彼女はゆっくりと顔を上げる。


「昨日の…あれ、実は深夜アニメの曲と振り付けで…誰にも言ってなかったけど、私、あ、アニメとかコスプレとかあと漫画とかキャラクターのフィギュアを集めるのが趣味で…」


「え!?そ、そうだったんだ…」


意外…。お嬢様って聞いてたから勝手にそういうのは無縁だって思ってた…。


「引くよね!?ギャップありすぎるよね!?ああああ、やっぱりそうだよねー…」


川瀬さんは両手で顔を覆って項垂れてしまった。


「そ、そんなことないよ!そりゃ驚きはしたけど、好きな事があるって素晴らしい事だし何より昨日の川瀬さんすごくキラキラしてたよ!」


住む世界が違う遠い存在ではなく、勝手かもしれないけどすごく身近で同じ女の子なんだと感じた。


「どんなものでも、好きなことや熱中できることがあるって素晴らしいことだよ。恥じる必要なんてない。むしろ、好きだって思えることに自信を持っていいと思う」


川瀬さんは驚いたように瞳を見開いた後、目を少し潤ませて頷いた。