体調悪くはないのだけど……。
 でも、お二人が、そんなにも帰りたいなら、無理強いは出来ないし……。
 どうしよう。

 そう思った時だった。

「あぁ、もうお帰りですか」

 御簾の向こうから、若い男の声がした。
 その声に、思わず肩がびくっ、と跳ね上がる。
 だって、その声には聞き覚えがあったから。

 忘れたくて仕方なかった、その声には。

「ご歓談のところ、申し訳ありません、双子の宮様」

 僅かな布擦れの音と共に、控えめな男の声が御簾の向こう側から近づいてくる。

 その声に、彩希は一瞬にして青ざめて、体を硬直させていた。

「正妻様を、お娶りされたのだそうで……。
そのお祝いを、と参りました」

 声を聞くだけで、体が小刻みに震えてしまう。
 少し前までは、あんなに好きだった声のはずなのに。

 今は、こんなにも恐怖を感じてる。

 最近もらった、あの文。
 あれは、まだ。

 芳哉も彬親も、知らないのだ。