「申し訳ありません。お嬢様」

 桜輔は思わず木綿子を抱き寄せ、そのままベッドに押し倒してしまった。

 二人分の体重を受け止めたベッドのスプリングがギシリと軋み、桜輔を責め立てる。

 我を忘れてお嬢様を押し倒すなど、執事にはあるまじき行為だ。

 しかし、桜輔の男の部分はこれ以上我慢できなかった。

「犬飼さ……」

「好きだよ。木綿子」

 木綿子の顎を持ち上げ、そっと唇を重ねる。

 我慢に我慢を重ねてきた男にとって、愛する女性への口づけはどんな美酒にも勝る極上の味だった。

 もっともっとと気が急いで、木綿子のペースを考えずに口づけを深めていく。

「い、犬飼さん……?」

 桜輔はすっかり骨抜きになった木綿子の髪をゆっくりと撫で、自分で編んだ三つ編みを解いた。

「今日は一晩中可愛がってあげよう」

 木綿子は感極まったように腰を浮かして桜輔に擦り寄った。

 木綿子の着ているシルクの寝間着を脱がしながら、桜輔は自分が新たな扉を開いてしまったことに気が付いてしまった。

 自分の手で大事にお世話差し上げたお嬢様を、自分の手で汚す快感。

 忠実な執事と不埒な恋人。

 一人二役を演じることに倒錯的な喜びを感じていることは誰にも言えない。


☆おわり☆