「また君ですか。
どうしたんですか?」

「いえ。あの、ご引退されるとうかがったので。」

「明日公表の予定なんですが。
一体どなたから?」

「御橋さんです。」

「ああ、彼女ですね。
もうプロデュースに携われないのが残念ですが。面倒ごとには巻き込まれたくないのでね。」

「そうですか。お疲れ様です。」

「...話はそれだけですか?」

「いえ、ききたいことがあって。」

「なんでしょう。」

「佐伯さんは、前まで顔出ししないように厳重に守られてたじゃないですか。
それを命じていたのって大室さんだったんですよね。」

「確かに彼の管理を任せたのは僕ですし、そもそも彼に才能があると見出したのも僕ですよ。」

「え、そうなんですか?」

「そうです。本来なら、僕の事務所に入れる予定だったんですが。彼の当時の素行はあまり良いものではないと会議で反対されましてね。」

「え!?」

「それで、公正も兼ねてあの事務所の社長に彼を預けたのですよ。

昔からのよしみはあったものの、勝手に向こうの事務所に入れて声優として活動させてしまったのはこちらの誤算です。

それに、事務所の争い道具として彼を利用してしまったのも痛いですね。」

「大室さんがご引退されたら、誰かが事務所を引き継ぐってことですか?」

「そうですね。僕の代わりはいくらでもいるので。昔とは時代が違うんですね。」

「あの...佐伯さんって、会ったときどんな人だったんですか?」

「今は穏やかな青年ですけどね。
たまたま僕が佐伯くんたちの喧嘩に巻き込まれたんです。そこが出会いですね。
まったく生きた心地がしませんでした。」

「喧嘩って...。」

「でも、常人ではないオーラが彼にあったのも事実です。なんとも言えぬ威圧感というか。それを芸能界に生かせば確実に才能が開花すると思いましてね。

...詳しくは本人に聞いてください。」

「はい...。」

佐伯さんにそんな一面があったなんて。

確かに、怒ったとき怖かったもんなぁ...。