「ひょっとしてその大路くんのお店というのは、お酒が飲める所ですか?」

「……そうだけど」

「じゃあ叶井さんの顔が赤いのは、風邪でもしもやけでもなく、お酒を飲んで来たからということですね。近くに来た時、少しですがアルコールの匂いがしたので、もしかしてとは思ったんです」


何だか酒臭いと言われている気がして、男から大きく一歩距離を取る。


「どうして急に離れたのですか?」

「……何となく」

「ほんのり香るくらいで凄く匂うわけではないので、そんなに気にしなくていいと思いますよ」
「……わかってるなら訊かないでよ。性格悪いな」


しかも、アルコールがほんのり香るってなんだ。私は料理か。


「料理にアルコールを使う場合は、火を通してアルコールを飛ばすんじゃないですか?それくらいなら、普段はあまり料理をしない僕でも知っていますよ。したがって、この場合のほんのり香るって言うのはですね――」

「説明しなくていい!別に求めてないから」

「あれ、でも今叶井さん」

「とりあえず、ひとの心を勝手に読むなって何度も言ってるでしょ!」

「読んではいませんよ。感じているだけで」


男は、お決まりの台詞をあの胡散臭い笑顔で言い放つ。