「ところで叶井さん、いつもより顔が赤いようですけど、ひょっとして風邪ですか?」

「え?ああ、いや、これは――」

「今日は少し冷えますから、こんな所で立ち話をしていては悪化させてしまいますね。早く中に入りましょう」


笑顔でそう促す男だが


「いや、私は入るけど、あなたは入れないからね?」


私は真顔でそう返す。

なぜこの男は、当たり前のように部屋に入ろうとしているのだろう。まあ、もう既に入ったということだけれど。


「入れてくれないのですか?」

「何でそんなに不思議そうなの。入れるわけないでしょ」

「何ででしょう?」

「何ででしょうって、普通に考えて入れないでしょ」

「叶井さんの“普通”が僕にはよくわかりませんけど、とりあえず入れてくれないのなら自ら入るしかないですね。と言うことで、お邪魔します」

「は?あっ、ちょっと!!」


男がドアノブに触れると、ガチャっと鍵が開く音がした。どうやら、出た時律義に鍵を閉めておいたらしい。
それと同時に男はドアを開けて、まるで自分の家であるかのように何の躊躇もなく中に入っていく。

追いかけた私が閉まりかけたドアを開けた時には、男は既に廊下を進んだ先にある部屋の前に居た。そしてたった今、中に足を踏み入れた。