そこからしばらく、やってみて初めて気が付いた接客業の苦労について、大路くんが熱く語るのを気のない返事と共に聞き流しながら、出汁巻きを食べつつ梅酒を飲む。

出汁巻きは最後の一口を残して先に梅酒を飲んでしまうと


「大路くん、私にもいつもの“いい”お茶」


熱い語りを無視する形で注文した。


「……お前、俺の話聞いてなかっただろ。あと、わざとらしく“いい”を強調するな」

「聞いてたよ。そこそこには」

「そこそこじゃなくてちゃんと聞けよな」


これ見よがしにため息をつきながら、大路くんはお茶の用意をする。

新しい湯呑を一つ出してきて、急須にお茶葉を入れて、そこにお湯を注ぐ。
蓋をしたところで蒸らすために手を止めた大路くんは、顔を上げて、ジッとその手元を観察していた私を見た。


「……なに」


視線に気付いて問いかけると、そこから更にジッと私の顔を見た大路くんは


「もうちょっと薄めてもよかったな」


そう呟いて、再び手元に視線を落とした。
聞き捨てならない台詞にもちろん私は突っ込んだけれど、大路くんからは「ほらよ」と温かいお茶が返ってきただけだった。





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