「ところでそれ、お酒?営業時間中はお客に誘われても飲まないって言ってなかった。そんなによく出来た舌じゃないから、アルコールが入ると料理の味付けがぶれるとかなんとかって」

「だからお茶だよ。お前がここに来るといつも飲むやつ。あれ、実はいいお茶だって知ってたか?」

「いいお茶って、玉露?」

「お前……玉露知ってるのか」


大路くんの驚き顔を、私はバカにしていると受け取った。

眼差しを険しくして梅酒を一口。そして一旦グラスに視線を落とすと、それをまた大路くんに向けた。


「……ねえ大路くん」

「ん?」

「……かなり薄めたでしょ」

「そんな悪徳商法みたいなまね、するわけないだろ?」


ニッコリ笑ったその顔が、逆に怪しい。というか、もうほぼ答えだ。


「とりあえずその一杯は、俺からのサービスだ」

「……絶対多めに薄めたな」


大路くんを睨みながら、ちびっと梅酒を飲んで出汁巻きを食べる。
私がもぐもぐと咀嚼している間に、大路くんはお会計に来たお客さんのためにレジに向かった。