自宅アパートはもう目と鼻の先だったので、階段を急ぎ足で上りながら鞄から鍵を取り出し、部屋の前に着いたところで素早く開錠。
中に入ったらドアを閉め、鍵も閉め、チェーンもかける。

流れるようにそこまで済ませたところで、玄関に立ち尽くしたまま息を吐いた。
たぶんそれは、安堵による吐息。


「……大丈夫、きっと気のせい、見間違い。だってありえないもんね。うん、疲れてるんだ。よし、寝よう」


気持ちを落ち着けるため、そう自分に言い聞かせる。強く強く、言い聞かせる。

そういえば、幽霊などの場合は目が合ってしまったら、こちらが幽霊の存在を認識していると知られたら危険だと聞いたことがあるが、幽霊には分類出来ないような存在の場合はどうなのだろう。

見上げた先、私がその存在を捉えたように、上空にある灰色の瞳が私の存在を捉えたような気がしたのは、どうか気のせいであって欲しいと願う――。