「三永ちゃん、ほんとは酔ってるだろ」

「これくらいじゃ酔いませーん」

「いいや、絶対に酔ってる。そのビール、ちょっとこっちに寄越しなさい。水と取り換えるから」

「ええー、嫌ですよ」


そんな二人の気安いとしか言いようのないやり取りを眺めて小さく笑みを零したところで、また時計を見上げる。

一度気になりだすと、時間が経つごとにその気持ちが膨らんでいく。
なにせあの魔法使い、放っておくと何をしでかすかわからない。それくらい、迂闊で緊張感がないのだ。

どうしたものかと見上げていた視線を戻すと、また大路くんと目が合った。

何か言いたげに、でも言おうかどうしようか迷うように、しばらく私を見ていた大路くんは、ドアがガラッと開いた音に反応して、顔を上げた。

そうして大路くんは結局何も言わないまま、「何かあったら呼んでくれ」と言い残して、新しく入店したお客さんの対応に向かう。
それを見送ったところでちびっと梅酒を口に含んだら、つんつんと二の腕を突かれた。

顔を向けると、三永ちゃんがニッコリ笑ってこちらを見つめている。その目は、やっぱり少しも酔ってはいない。