「叶井さんも、前に食堂のおばちゃんから聞きましたよね?新人だった頃の主任は、ものすごーく可愛かったって。性格も、今みたいにきつくなくて、初々しさと可愛らしさに溢れてたって。そんな子と、研修期間中ずっと一緒に仕事をしてるんですよ?そんなの、何も始まらない方がおかしいですよ!」

「……おかしい、かな?」


またしても大路くんを窺うと、これには、こっちを見るなとばかりに目を逸らされた。
そのまま大路くんは、三永ちゃんの前に濃いめに作ったハイボールを置く。


「新人と、新人研修を担当する先輩、そんな仕事だけの関係が、一緒にいるうちに少しずつ変わっていって、いつの間にか特別な気持ちが芽生えて、そして今日まで二人は、誰にも気付かれないようひっそりとお互いを想い合ってきたんですよ……」


うっとりしたようにそこまで語った三永ちゃんは、そこで勢いよくハイボールを煽ると、「それなのに……」と悔しげに呻いた。


「……それなのに、何でわたしは今日までそのことに気が付けなかったんですか!?そんな、漫画みたいなことがすぐ近くで起こっていたのに、何でわたしは!そんな雰囲気、あの二人からはちっとも、これっぽっちも感じ取れなかったなんて!!」


がばっと勢いよくテーブルに突っ伏して、三永ちゃんは悔しげに地団太を踏む。
ついさっきまで笑顔を浮かべていたかと思ったら、この豹変ぶりである。

大路くんは、初め困惑した顔で三永ちゃんを見ていたが、それがやがて衝撃へと変わっていくのが表情の変化から読み取れた。