申し出自体はありがたいが、まさか自分だけ送ってもらうわけにはいかないだろう。
濡れては困る物を持っているのは、私ではなく男の方でもあるし。


「……叶井さん、何だか大路くんが怖いんですけど、これはお願いしますと答えてもいいものでしょうか?」

「……たぶんね。たぶん、大丈夫なやつだと思う。……たぶん」

「……それは、本当に大丈夫なやつですか?」


必要以上に“たぶん”を重ねてしまったせいで、男が不安そうに問いかけてくる。
それに「大丈夫だって。……たぶん」とまた無意識にたぶんを付けて返すと、男は不安そうな表情でチラッと大路くんを見てから、また私の方を向いた。


「……これはもういっそ、丁重にお断りするというのはどうでしょう。濡れずに帰る方法ならあるじゃないですか。ほら」


開いた口から「まほ――」と言葉が出た瞬間、私はすかさず男の脇腹に向かって肘を繰り出した。