「改めまして、おはようございます叶井さん。今日はとっても曇っていて何とも言えない微妙なお天気ですね」

「……そういうのは、今日はいい天気ですねって言える時だけでいいと思う」


カゴを持ったまま洗面所を出て部屋に戻ると、男は当然のようにその後ろに続いた。


「あっ、もしかして、これから朝ご飯でした?」


男は、台所の作業台に置いてある物を目聡く見つけて声を上げる。


「知っててあのタイミングだったんじゃないの?」


持っていたカゴをとりあえずテーブルの上に置いて、振り返る。


「いえいえ、たまたまですよ。本当についさっき、祖父が焼き立てのパンを手紙付きで転送してきたんです。見ますか?」


答える前に、男はポケットから二つ折りの便箋を取り出す。
差し出されたので何となく受け取ってしまって、受け取ってしまったからには開く。


「…………ねえ、読めないんだけど」


そこには、中々に達筆な文字が並んでいた。
でも、読めないのは達筆なせいではない。そこに並ぶ文字は、見慣れた文字ではなかったのだ。


「ああ、すみません。しばしお待ちを」


そう言って男が便箋の上に手をかざすと、スペルさえわからないほど達筆だった異国の文字が、あっという間に慣れ親しんだ文字に変わった。