「主任、凄く怒ってましたね。部屋の外まで怒鳴り声が響いてましたよ」

「怖かった……。もう生きてはあの部屋から出てこられないかと思った……」

「生還されて何よりです」


魔法使いを名乗る不法侵入男に不用心にも思いっきり背中を向けて電話した時にも、電話口で主任は、一体社会人を何年やっているんだとかとなんとか、烈火のごとく怒りまくっていたが、出社してすぐ別室に呼び出されてのお説教は、その比ではなかった。

何なら、頭から食べられるのではないかとすら思った。正に鬼のようだった。


「叶井さんが必死で謝ってる声も一緒に聞こえてきてたんですけど、途中から勢いが衰えていって、最後には何か言ってるけどよく聞こえないってところまできた時には、その場にいた全員、憐れみの顔になってましたよ」


なるほど、それで私がお説教から解放されて別室から生還した時、同僚も先輩も後輩も、みんなしてやたらと優しくしてくれたのか。

普段あまり話をしないような先輩も、わざわざ私の所までやって来てちょっとお高いチョコレートをくれたりしたから、何事かとは思ったのだ。


「でも叶井さんって、真面目ですよね。と言うか、正直者?わたしだったら、寝坊してバスを乗り過ごした時点で諦めて休みますね。具合が悪くて起き上がれませんでしたーとか言って」