いらっしゃいませ、なんて笑顔で挨拶をしている大路くんは、私にはそんな風に店員の顔で接したことなど一度もない。
来店した私にかける言葉なんて、「おう」だ。いらっしゃいませですらない。

私だって一応お客なのにどうなっているんだと思ったり、でも変にかしこまられても気持ち悪いなと思ったりしながら、栗を飲み込んでお茶に手を伸ばすと、すぐ隣の椅子が引かれて、誰かがそこに腰を下ろした。

驚いて隣を見ると、視界の端で大路くんも同じように驚いているのが見えた。
なにせ席は他にも空いている。そこしか空いていないわけでもないのにわざわざ隣に座るなんて、知り合いか、その席が定位置の常連か――。


「……なっ…………」


驚き過ぎて、開いた口からはそれしか声が出なかった。
万が一にもまだ栗が口に入っていたら、もしくはお茶を含んでいたら、噴き出していたかもしれない。


「こんばんは、叶井さん」


なにせそこに居たのは、あの灰色の瞳の魔法使い男だった。
今日も変わらず、上から下まで靴も含めて、全身黒っぽい色味で纏まっていた。