「……ところで、さっきから当たり前のようにひとの名前を呼んでますけど、私名乗りましたっけ?」


そんな覚えはないし、ドアの所に表札だって出していないうえに、私はこの男の顔に見覚えがない。

知らない人に名前を知られているというのは、どうにも気味が悪いものだ。
そのため、初めは人好きがすると思っていた笑顔も、段々と胡散臭く見えてくる。

まあそれは、名前うんぬんもそうだが、話の内容のせいも多分にあるとは思うけれど。


「名前くらいなら簡単にわかりますよ。これは魔法使いでなくとも、現代社会ならそう難しいことではないと思います。とは言っても、僕は決して叶井さんのスマートフォンを覗き見たりはしていませんので、ご安心を」


そう言われて、ああそうですかじゃあ安心と思う人が、果たしてこの世界には存在するのだろうか。


「世界規模で見るのなら、いないことはないと思いますよ。そういう素直な人も」


声に出していないはずなのに、なぜだか答えが返ってくる。

まさか、言いたいことが全部顔に出ていたのだろうか。いや、そんなわけがない。
となると今のは――。