でもひょっとしてここで勘違いだと主張すれば、この男は出ていってくれるのだろうか。

この部屋は男の言う通り広過ぎず狭過ぎず一人暮らしには丁度良いうえに家賃もお手頃で、ご近所トラブルなんかもなく、職場までバスで一本という悪くない場所にあるので、出来ることなら住みづらくなるなんて展開は避けたい。


「目が合った?はて何の話でしょう。それはとんでもない勘違いだと思いますよ」


言ってしまってから後悔しても遅いのだが、かなりわざとらしくなってしまった。どうしようもない大根役者っぷりである。


「なるほど、やはり勘違いではないようですね」


私の演技が下手過ぎたせいか、男は確信を込めてそう言った。


「……今の流れで何でそうなるんですか」


一応反論の隙があるかもしれないので問いかけてみると


「何でって、叶井さん、嘘をつきましたよね。ああ、別に心を読んだわけではありませんよ。そういう魔法もありますが、一応現代では禁忌になっていますので。でもまあ大抵の魔法使いは、魔法がなくとも多少は読み取れます。正確には、感じ取れると言った方がいいかもしれませんね。元々そういう能力が備わっていることがほとんどで、僕も例に漏れずというわけです」


どうやら、私の演技の下手さは関係なかったらしい。
まあそれは、男の説明を全面的に信じるならばの話だけれど。