「いいお部屋ですね。狭過ぎず広過ぎず、一人暮らしには丁度良い。廊下の所にドアが二つあったのは、お風呂とトイレが別になっているということですよね。やっぱりお風呂とトイレは別がいいですよね」


人好きのする笑みを浮かべてそんなことを言われても、ちっとも場は和まない。何しろこの男は、不法侵入の真っ最中だ。


「……不法侵入は犯罪ですよ」

「鍵が開いていたもので」

「だったら勝手に入っていいってことにはならないと思いますけど!」

「ご本人もすぐ近くに居ましたし」

「入っていいとは言ってません!一言も!!」

「でも僕はお話がありましたので。それも、可及的速やかにあなたにしたい大切なお話が」


話にならないとはこういうことを言うのだろうか。うん、きっとそうに違いない。


「あのですね、こっちはそんなことをしてる場合でもないくらいとにかく急いでいるので、とっとと出ていかないと警察を呼びますよ」

「そんなにも急いでいるのに、警察を呼んでいる暇はあるんですね。でも、そもそも叶井さんは警察を呼ぶための道具、いわゆるスマートフォンをお持ちでないのでは?」


スッとテーブルを指差され、つられるように動いた視線がそこにあるスマートフォンを捉える。


「あっ……!」


そこで唐突に、なぜ自分がここに戻ってきたのかを思い出した。