「私、やっぱり佐倉くんの所へ行ってきます。」「…は?…だから、今は舞台に集中するべきだと言っただろ。」
「そうですよね。今は、舞台に集中することが、一番大切だと思っています。」

真島くんが言うように、この舞台は、誰が1人だけが頑張ったわけではない。皆で作り上げた舞台だ。だから、私の身勝手な行動で、舞台を台無しにしてはいけない。それは分かっている。

「だったら──」
「私は、真島くんのように、器用な人間では無いのです。」
「どういうことだ…?」
「私は演劇のプロではないので、佐倉を放っておいたまま、舞台に集中することなんて、できません…!!」

それだけ言うと、私は走り出した。

「おい、待てって…!」
「大丈夫です。衣装は絶対に汚さないよう、気をつけますので…!」
「そういう問題じゃないだろ…!!」

真島くんが色々と叫んでいたが、私は心を鬼にして、走り続けた。
真島くん、ごめんなさい…。
どちらを選ぶのか、究極の選択を(せま)られて、私は、このように行動することしかできませんでした。こんな強欲な私を許してください。
でも、私はどうしても、今、彼の元に向かわなければならないのです。