廊下に出て、ゆっくりと歩き始める。あまり速く歩いて、2人に追いついてしまっても気まづいだろう。
何より本田くんがきちんと反省してくれたみたいで良かった。これも陽芽さんの存在があってこそだろう。僕一人では絶対にできなかったことだ。

「け〜い〜く〜ん!!」

突然後方から声が聞こえて来た。
一体誰だろう。この学校に、僕のことを『蛍くん』と呼ぶ人間は一人もいない。というか、僕のことを『蛍くん』と呼ぶのは、知り合いの中で一人だけだ。でも、その人は大学生で、ここにいるとは思えない。きっと僕ではなく、他の『けい』という名前の誰かを呼んだのだろう。
そう思って、僕は振り返らなかった。

「ちょっと、蛍くん、無視!?け〜い〜く〜ん!!」

もしかして、本当に僕のことなのだろうか。でも、ここにあの人がいるはずが…。
そう思いながらも、僕は後ろを振り返った。

「裕さん…!」

まさか本当に彼だとは。

「へへっ。久しぶり〜!」
「どうしてここに?」
「どうしてだと思う?」
「母校に遊びに来た…んですか?」
「ブッブー!」

裕さんが胸の前で大きくバツを作った。

「でも考える姿勢があるのは良いね!朝、真島くんに会った時、同じ質問をしたんだけど、一瞬で『分かりません』って返されたからね!」

真島くんらしい。彼なら面倒な過程は全て飛ばしてしまう姿に納得できる。