ヴァレニウスが戻ってきたのは、ヴェルヘルムの傷の措置が終わったときだった。
 ヴァレニウスは従者に、台にまだ新しいが既に冷たくなった遺体を運び入れさせた。
「なんだ。また死体か・・・?」
 ティブリンは手を拭い、捲り上げた袖も元に戻してはいなかった。
 ヴァレニウスが先に横たわっているヴェルヘルムを見て驚いた顔を作ったが、一瞬で冷静に戻った。
「何があったか心当たりがあるみたいだな」
 ヴァレニウスは、この部屋にヴェルヘルムを入れたティブリンを咎めなかった。
「悪かった。今後は屋敷の警備を厚くする」
「それは当然のことだが、・・・なんなんだ今日は」
「ヴェルヘルムは無事か?・・・」
 ヴァレニウスは外套を脱ぎ、椅子に腰掛けた。
「・・・それを一番最初に聞けよ」
「・・・すまん」
「普通なら死んでるだろう。めちゃめちゃだった。だが、体を元に整えるだけなら誰でもできることだ。今は息はしているから間に合った。・・・ああ、お前の傷は今消えたな」
 外套を脱いだヴァレニウスの上着とシャツは一緒に研ぎ澄まされた刃に一閃されぱっくり切り開かれていた。 ティブリンは不快気にそのシャツについた乾いた赤黒い血見た。
「・・・臭いんだよ。血のにおいは。わからない奴にわからないだろうが・・・お前の背中の方についている血の馨りとはぜんぜん違うんだ! ・・・今日はヴェルヘルムの治療にかなり消費してしまったんだが、その様子だと」
「採れなかった」
「普通の死体だけついても肝心のものがなければ、腐るだけだぞ」