ティブリンとティブリンの下男ハルマは、狂ったように吠え立てるマスティフ達の鎖を次々に外した。番犬たちは躊躇うことなく闇の中に吸い込まれるように突進していった。
 番犬が不審者に襲い掛かる唸り声、反撃にあい怯む高い声、そして逃げた不審者を追って走り去る足音がした。ようやく、二人は門へ向かった。
「坊ちゃん!」
 ハルマの声を聞き、ティブリンは舌打ちした。この屋敷でそう呼ばれるのはヴェルヘルム一人だった。
「・・・ぁぁああ!(めんどくさいことになった。)で、生きてるのか!?」
 ハルマの声はすぐに返ってこなかった。呼吸しているかどうか、確認できないようだった。
「わかった。すぐ運べ! 私の部屋だ」
 ティブリンは、ヴァレニウスからヴェルヘルムを研究室に一歩も入れてはいけないときつく命じられていたがしかし、今は選択の余地はなかった。