ヴァレニウスは小さく息を吐き出した。
「・・・弟御は、この国の教育を受けて立派な戦士になるでしょう。たとえ貴族であっても自国に残る人間は少数です。身分に関わらず、戦士になり富を運ぶことが最も貴ばれる生き方ですから」
 それがどういう生き方かケルトゥリには理解できなかった。だが、ヴェルヘルムに自分と同じように閉じ込められて行き続けるよりずっと救済された生き方だと信じられた。
「もう・・会えないということはないのよね?」
「外で教育を受けて普通に育つというだけです。ここには連れて来ます」
 ヴァレニウスは、ヴェルヘルムの手を引いた。
「外?・・・普通・・」
 ヴァレニウスの眼は、(あなたが着たばかりの頃何度も繰り返して言った、外です)言っていた。
「今突然連れ去ったりはしません。ですが、この子はあなたとは違うのですから、いずれ・・・何もかもが変わっていまう」
 ケルトゥリを振り返るヴェルヘルムの姿が扉の向こうに消えた。
「・・・・!」(そんな!・・私が変わらないから、私たちがいずれ壊れていってしまうというの?)
 ケルトゥリに仕える者たちも一年もしないうちに全て入れ替わり、部屋も何度か替えられた。ケルトゥリが何のために閉じ込められているのかも知る者はほとんどいない。場所の特定もできぬよう最善の注意が払われていた。