ヴェルヘルムと名付けられたケルトゥリの弟はすくすくと育ち、すぐにケルトゥリはヴェルヘルムを抱き上げることができなくなった。そして、立ち上がり、ケルトゥリの名前から始まって簡単な言葉を話すようになった。二人は共に一日数時間もいられなかったが、二人でいる間は本当に仲の良い姉弟だった。
 しかし、ヴァレニウスは見かねて言った。
「ヴェルヘルム様はあなたのように賢い、何を教えてもすぐに覚えることできます。彼なら自室とこの部屋とが世界の全てではないことも知るでしょう。もちろん、このまま閉じ込めておくことはできますよ」
 ヴェルヘルムは、二人の間の緊張感も交わす言葉も耳に入らず、理解もできず、ただでたらめならくがきに夢中だった。
「巫女様がいらっしゃってもう何年経ったでしょう。でも、あなたはまるで変わらない。だが、ヴェルヘルム様はすぐに少年になり、やがて大人になります。それでもこのままでもよいですか?」
(この子は私の子供の頃とは違う。何の不自由もない。飢えも寒さもここにはない。富豪や貴族の子供は知らない。でも、まるで天使のようね)
「ヴェルはあなたのように大人になる・・・の?」
「ここに来て巫女様は時間をどのように感じていますか?」
「・・・止まってる。まるで同じ日が繰り返しているようよ!・・・苦しくて仕方ない!気が狂いそうだわ!」 ケルトゥリの叫び声を聞き、ヴェルヘルムが弾けるように火が点いたように大声泣き出した。ケルトゥリはヴェルヘルムを包むように抱きその眩しい髪に頬を寄せ、自分の気持ちを抑えなければならないことを思い出した。