険しい山岳にある小さな国は貧しかった。国民はもっと貧しかった。ケルトゥリの生家も夏の間家畜を預かり放牧することを糧とした貧しい家のだった。ただ違ったのは、司祭たちが言う神話の時代に神々がもっていたという力の一つをケルトゥリがその体に宿していたからだった。偶然ケルトゥリの血が家畜たちの傷に落ちたとき、消えてしまうのを彼女は知った。ある日、彼女の父親が岩場から足を滑らせて命を落とそうとしたとき、ケルトゥリはその力を使い知られるようになってしまった。怪我人がケルトゥリの家をたずねるようになってまもなく、国を治める教団が彼女を捕らえた。
 それから、ケルトゥリは要塞のもっとも深い部屋に丁重に閉じ込められることになった。
 貧しい家では子供を売ることは珍しいことではない。でも、ケルトゥリは最も多額の報償と引き換えに「教団」に売られたことには替わりなかった。
 それだけだった。貴重な血を持つ子供として高い地位にすえられても自由はなかった。閉じ込められた後愛してくれていた両親を求めたけれど、もう自分の知ってる親はいなかった。ただ、子供を高額で売り抜けて喜ぶ大人達がいるだけだった。
 だから、妹とも弟ともまだ生まれていない兄弟が生まれることを知って、そんな大人からすぐに弟を取り上げたのだ。そんな大人に兄弟を渡してはおけない!と決めて。力があろうとなかろうとそんなことは二の次だった。