ヴェルヘルムはふとそう思い及んで曲を終えた。リュートを部屋の隅に置いた。この国では音楽に心酔するものはほとんどいなかった。主要産業が他国に傭兵として派遣されることであるため、軍の楽隊もなく、文化を担える者達は戦える者であるため国の外へ出ていた。そして、この国の経済状況では芸術が花開くことはまだ遠い先のことであった。
 ヴェルヘルムがリュートを弾くのは、音楽がケルトゥリを慰めるからに他ならなかった。音楽は一人でも楽しめる数少ない遊戯だと言い、リュートの扱い方もケルトゥリに教わった。その後は誰に教えを請うわけでもなく自己流で弾いている。
 ケルトゥリは、ヴェルヘルムに外の世界について尋ねた。ヴェルヘルムの生活や友達のこと、流行や噂、日々もたらされる情報。そして、音楽。ケルトゥリは一人でできることはなんでもできた。だからかえってヴェルヘルムはケルトゥリが閉じ込められていることが残念でならなかった。だが、ヴェルヘルムは自分は無力だと思っていた。