友人達は派遣先が決まると、もう生きて親兄弟の元に帰れないかもしれないと言い、家に戻り貴重な数日を過ごすのに、自分は13年経っても養父との距離も縮められないまま出て行くのだとなんともやりきれない思いだった。
(俺が死んで叔父上が困るのは、姉さんに対してだけ、なんだろうな。ホントにそれだけ・・)
 ヴェルヘルムは自室に戻り荷物を片付けた。多くの荷物はいらなかった。旅には邪魔になるだけだ。
 ヴェルヘルムは何気なく、部屋の片隅にするリュートを抱いた。四弦を弾くと、いくつか絞った。
 先日旅の楽士から聞き覚えた曲をゆっくり呼吸するように奏でた。美しい豊かな小さな国がいくつもの大国にと狙われて幾度となく戦場になったという。だが音楽を通して流れる、まるで長いその歴史をかの国の豊かな大河の中に映るような澄んで弾ける音楽だった。
 静かなるファンファーレその国の歴史が明ける、繰り返す水のマーチ、剣を交えるの音、人の息遣い、高く上りつめ広がる、そして静かに漂うように、ひづめの音、更に激しく戦いが続き終わらない、はじけながら静かに上り詰める。水面に映る水の国。豊かで美しく強く澄んだ国。そして静かな。時に飲み込まれて溶けていく。この国の語り部はきっと軽薄さの微塵も無い乙女だな、まるでワルキューレがその崇高な目的と戦い激しさと、そしてふと乙女に戻って寂しげに歌うような。