翌日、ヴァレニウスは食堂の巨大なテーブルに邸宅の設計図を広げ、警備体制の変更と改築について思案していた。
 そこに今身を清めてきたヴェルヘルムが入ってきた。
「叔父上。こんな時間に屋敷にいるなんて珍しいですね」
「ヴェルヘルム。宿舎から戻って来て、何かあったか?」
「ははは、もう卒業ですよ。行く先が決まったのでご挨拶に参りました」
「ほぅ」
「隣国の国境警備に2年間参ります」
「そうか、つぎ戻ってくるときは成人していることになるな」
「はい・・。それで、姉にも挨拶に行きたいのですが」
「・・・そう考えると2年は長すぎる。いつ発つのだ?」
「今月の14日の早朝です。道が雪で閉ざされる前に出ます」
「そうか。では明日連れて行く」
「・・・叔父上!」
「?」
「叔父上、前々から一度お話をしたいと思っていたのです。私は、もうここには戻ってこれないかもしれない。私はいつもどこにいても中途半端な存在のような気がして。訓練校でも貴族のような士官候補でもなく一生戦い続ける運命の孤児でも無く、徴兵された身でもない。今回もほどほど安全な国境警備に」
「それは偶然だ」
「私が言いたいのは孤児でも訓練校に長くいれば実の父母でなくとも信頼のおける関係を築くことができます。でも・・叔父上と私はいつまでも距離があるな、と」
「・・・私にとってヴェルヘルムはケルトゥリ様の弟でしかない。ただ、私の養子になりたいという望みがあるというなら考えないこともない」
「・・・そんなつもりでいったわけではありません」