「ヘルマ! ヴェルヘルムを運び出してくれ。目覚める前に体は拭いて自室に寝かせておいてくれ・・もう子供じゃないんだぜ。あんたの細腕じゃ無理だろ」
「あぁ」
「・・・この際、いっとくがいろいろズレてるよ。そりゃ、忙しくて砦との往復でやりすごしてるけどな。村の賑わいだって昔とは違うんだ。軍の強さも装備も報告あがっているだろ。元々あんたが計画したことだ。俸禄だって昔のままじゃない。じゃなんで、この家は変わらないんだ。今回のことでわかっただろ。ああ事故だった。事故だったんだ。だがな、あんた王子の婚約者を殺しちまって上からはお咎めなしかよ! わからんかね? あんた、妬まれているし、怨まれているんだよ。一没落貴族だったあんたを今じゃ、面白くないって思っている連中はごまんといるんだ。いや、あんだだけがわかってたはずだ! 野心があったんじゃないのか! 俺から見てもわかるのに、あんた、永遠の命もそれを他人に分け与える術も独り占めしてるんだ! それを今や隠し切れなくなった! そういうことさ! ・・・これがなかったら、今日とっくにあんたもヴェルヘルムも死んでるんだぜ?」
「姫君の開胸をするぞ。心臓を長く患っていたという話だ」
 病気の治療のために体を切り刻むことは医療行為として一般的に認知されていなかった。それも高貴な生まれとなれば尚更だった。
 筋に沿って横に次に縦に切り開いた。
「・・・これは、まさかな。ここに入ってるのは牛の心臓じゃまいな」
「破裂してるぞ。肺も潰れてるな。これは心臓が肥大化が原因だな」
「肋骨を外して取り出そう。こうなると何が原因の患いだったか調べるのに時間がかかる」
 バケットに移し、元の場所に大量の綿をつめて手際よく縫合した。。
「調べるというなら調べけるども、それが目的じゃあるまい。・・・これではっきりしたな。病人が飲むと2つの症状がでる。一つは病気が進行してしまうパターン、もう一つは病巣に対して治癒力が暴走してしまうパターン。これは後者だろう」