「失礼します。」
職員室のドアを開けて、中に入る。
「丸山先生に呼ばれて来たのですが…」
「おお、葉鳥。急に頼んで悪いな。」
先生はパソコンから目を離さずに言う。
「いえ、大丈夫です。用というのは…」
「ああ。これ、今度の校外学習のしおりなんだが、明日の放課後までにクラスの人数分、しおり作ってもらえるか?」
丸山先生は何かも私に雑用を押し付ける。
これまでの雑用は全て文句を言わずにしてきた。
きっと、どこまで言ったら怒るか、間に合わなくなるのか試しているのだろう。
「分かりました。ホッチキス、お借りしますね。」
先生の机の近くの棚にあった、ホッチキスと、芯が入っている箱、プリントを持って、職員室を出た。
「わあ!」
職員室を出てすぐの角を曲がると、沖さんが飛び出てきた。
「どうしたんですか?」
「ちぇ、なんだよ。驚かねえのかよ。」
残念そうにぼやく。
「何も用がないなら、行きますよ。」
足を浮かせた瞬間、走ってきた男子がぶつかってきた。
バランスを崩して、持っていたプリントを撒き散らしてしまった。
「おお、悪…」
笑いながら謝っていたが、プリントの散乱を見て黙り込んだ。
そりゃそうだ。
私のクラスの人数分×しおり分のプリントを運んでいたのだ。
もう、プリントの順番はぐちゃぐちゃになっていて、どんな風になっていたか分からない。
「何やってんだ、葉鳥。」
後ろから丸山先生の声が聞こえる。
「うわ、これやばいな。」
落ちているプリントを見ているから先生の顔は見えないが、その声は喜んでいるように聞こえた。
「じゃあ、葉鳥頼んだぞ。授業遅れないようにな。」
「はい。」
言うと思った。
授業は5分も経たないうちにはじまるだろう。
男子たちはいつの間にかいなくなっていた。
急いでプリントをかき集める。
今は、順番なんてどうでもいいから、早く教室に帰らないと。
「俺も手伝うよ。」
沖さんは膝をついて、プリントを拾う。
「いいです。急がないと、授業はじまってしまうので、先に帰ってください。」
無視して拾い続ける沖さん。
「いいですって。」
「だって、これ集めたとしても、こんなたくさんの量運ぶの大変でしょ?女の子なんだから。」
「女とか、男とか、関係ないです。」
それは、男女差別だ。
女だから運べないとかない。
確かに少し重いけど。
私たちは無言でプリントを拾い、沖さんが3分の2くらいの量のプリントを持ってくれた。
席に着いたと同時にチャイムが鳴った。
丸山先生の眉間にしわが出来ている。
きっと悔しいのだろう。
沖さんは私に向かって親指を立てている。
ほらな?とでも言いたげな表情。
私は気にせず黒板を見つめた。