でも、神様になれることなんてない。
だから、私は感情を捨てた。
それは、5歳のある日だった。
「火事だ!」
そう叫ぶ声が聞こえて、目を覚ました。
意味がよくわからなかったけど、お母さんに伝えようと思って、ドアを開けた。
が、すぐそこは火の海だった。
あつい。
1階に行くにはこの階段を通るしかない。
火に近寄ったが、あつくてすぐにさがった。
私は部屋に戻り、布団に潜った。
でも、あつさで寝つけず、布団から出て、窓を開ける。
そこには絵本でしか見たことない消防士のお兄さんが立っていた。
「さあ、早く!」
焦った顔をしている。
状況を理解出来ずに突っ立っていると、腕をひかれて、気がつけば消防士のお兄さんに抱っこされていた。
混乱で喋れないでいると、たくさん人がいるところに下ろされた。
家の前だ。
家の前にいる人達の顔を見ると、そこには、見慣れたお隣のおばさんの顔があった。
「おばさん、どうしたの?」
おばさんの目の前に行って、口を開けば、おばさんは私を抱きしめた。
「ううっ」
おばさんの体は震えていた。
そして、泣き声が聞こえてくる。
「…どうしたの?」
いつも笑顔のおばさんが、泣いているということは何か大変なことがあったということだ。
尋ねても、おばさんは何も言わない。
私は周りを見渡した。
近くに住んでいる人達がほとんどだった。
みんなが私を見ている。
「何があったの?」
周りの人に聞くが、みんな私から目を逸らした。
「お父さんと、お母さんは?」
私は再び口を開く。
おばさんの体がびくっと震える。
ドオン
後ろから、強烈な破裂音が聞こえる。
後ろを向くと、さっき階段で見たような火が何倍にもなっていた。
「私の家…?」
燃え上がっている炎によって、私の家であるかどうかが、一目では分からない。
私は、燃え続ける炎をずっと見ていた。
次の日だった。
お父さんとお母さんが死んだということを知ったのは。
「うわぁぁぁぁ」
それを知った私は泣き叫んだ。
でも私は、お父さんとお母さんは戻ってくると信じていた。
きっとあれは嘘だ。とか、あの時の光景は夢だ。とか思って。
でも、どれだけ待っても、ふたりは戻ってこなかった。
私は気が付いた。
信じたり、あの時は楽しかったとか思ったりするから、悲しいのだと。
だから私は感情を捨てた。
期待をしなければ帰って来なくても、悲しくないから。
苦しくないから。