いや、伊藤なんて平凡な苗字。
きっと私じゃない。
私にこの場で話しかけてくるような女の知り合いなんていない。
金田がその声を聞いて我に返ったのか、私の手を掴もうと腕をのばした時だった。
「金田、お前どんだけしつこいんだよ」
聞き覚えのある山本弟くんの声だった。
その声が金田の動きを一瞬止めた。
その隙に私はふわりとした感触に包まれた。
「伊藤さん、大丈夫?」
金田の手を払いのけて私を抱きしめた女の子。
そろりと顔を上げて見て、私は口をポカンと開けた。
…………なんで!?
相沢くんの元カノさんに抱きしめられていたからだ。