キャリーバックに近づき、じっと見下ろしながら、香耶は自分に強く言い聞かせる。
絶対に、あのスマホの封印は解かない……絶対に。
固く巻きつけて二重に結んだタオルはきつく、なかなか解けない。
ダメダメ、せっかく日本から離れて、遠いところに来たっていうのに……
スマホの電源を入れた途端、離れた距離はゼロになってしまう。
だから絶対に……
無意識に手を動かしていた香耶が、ハッと気づいた時には、手にしたスマホの画面が小さな音をたて、白い光を放って息を吹き返していた。
「……あっ……」
表示された画面に並ぶアイコンが、すでに懐かしい。
そうなってしまえば、もう、ダメダメ!と叫ぶ理性も、それをタッチする香耶の指を止めることはできなかった。
パソコンやスマホ、インターネットと繋がる電子機器を、世界の窓、と言っていた人がいたけれど。
今まさに、香耶はその言葉を苦い思いでかみしめる。