ロマンチックな夜景を見るのに抵抗があるのは、言うまでもなく、あの夜のせいだ。

とってもきれいだとは思うけど、そう感じた次の瞬間、ちょっとせつない複雑な気持ちになってしまうのが、自分でもつらい。

少し落ち着いたお腹に冷えたオレンジジュースを注ぎ込み、香耶は静まり返ったテレビから、その横に置いた荷物に目をやった。

特に予定のない夜は、大抵、テレビを見ているか、スマホで何かを見ているか、というのが、香耶の定番。

その片方は使えず、残る片方は……日本を出る時に封印してきた。

手持無沙汰な今の状況は、自分で決めたことだけれど、何の音もない部屋の静けさが、今の香耶にはひどくつらかった。

電源を切って、タオルでぐるぐる巻きにして、ポーチに入れ、キャリーバックの奥底にしまったのは、こうやって誘惑にかられたとしても、見れないようにするため。

スマホを……今までの写真やメッセージ、カレンダーに至るまで、あの人の匂いがしみついたものを手に取れば、どうしたって思い出す。

いい思い出も、嫌な気持ちも全て、今の香耶を切り刻むものでしかないのに、それを見るなんて……自滅願望のあるバカな人間のすること。