入って最初のコーナーは、フルーツ。
その向こうに見える棚に野菜のようなものが見えるから、造りは大体、日本のスーパーと同じようだ。
慣れた配置に安心すると同時に、香耶は自分の庶民的な感覚にクスッと笑いを漏らす。
スーパーに来て安心するって、なんか主婦っぽすぎない?
結婚してないけど、と頭の中で続けてしまって、ちょっと気持ちに影が差す。
けれど、目に入って来た見慣れないものに、意識はすぐ切り替わった。
「なにこれ……?」
大き目の栗くらいの大きさで、ゴツゴツして黒っぽい固そうな皮に包まれたそれは、枝についたまま、こんもりと陳列棚の片隅に置かれている。
けれど、この場所にあるということは、多分、フルーツなのだろう。
隣には、アボカド、パパイヤ、と南国系のフルーツが並んでいるところを見ると、これも暑い地方の……フルーツなのだろうか?
ちょっと匂いを嗅いでみたけれど、マンゴーやバナナのような甘い匂いはしない。
代わりに感じられたのは、いつかキャンプで行った森を思い出すような、木の匂い。
多分、きっと…絶対に、日本では売っていないものに違いない。
買ってみたい気もしたけれど、しばらく迷った後、香耶はそっと、その黒くて丸い実のついた枝を元の場所に戻した。