見慣れた人の形ではないけれど、赤は止まれ、というのは共通認識のようだ。
なんだか早いなぁ、と、点滅する光を見ていると、信号はすぐ青に変わった。
周囲からワンテンポ遅れる形で歩き始めると、横断歩道を半分ちょっと歩いたところで、信号の青が点滅を始めた。
「えっ、ちょ……早っ」
慌てて小走りで残りを渡り切った香耶が振り向くと、信号なんてなんのその、と、カラフルなTシャツを着てカートを引いた地元の人らしいおばさんが、悠々と横断歩道を歩いてくるのが見えた。
並んだ車も、ゆっくりと歩くおばさんにイライラする様子もなく、横断歩道の少し手前で停車している。
日本でなら、早く渡れ、とでも言いたげな運転手がイライラしていたりするものだけれど、そんなこともなさそう。
ちょっと驚いた気分のまま、見守ってしまった香耶の前におばさんが到着すると、車はカートの車輪が歩道に乗り上げるのを待って、ようやく走り出す。
ホテルに送ってもらった時には、運転が乱暴だと感じたけれど、どうやら信号待ちでイライラするような人はあまりいないらしい。
へえ、と口の中でつぶやいて、さっきのおばさんを見れば、後ろを気にする風もなく、目の前の建物に大きく開いた入口に入っていくところだった。