オレンジ色に染まる広い部屋の、向こう側。

自分の部屋とは違う、金属製の黒い扉を見ながら、香耶はゆっくりと肺の中の空気を入れ替えるように深く、息を吐いた。

香耶以外の人の気配のない部屋は、とても静かで、日本にいる時には当たり前だった、街の喧騒もほとんど聞こえない。

その環境の違いなのだろうか。

乱れた心臓の音は、数回の深呼吸で、いつもよりずっと早く落ち着いていく。

どくん、どくん、といつものペースの鼓動と、落ち着いた気持ちに、香耶はほっと安堵のため息をつく。

そして、ぐう、と鳴るお腹の音。

「……そっか、もう夕方だもんね」

飛行機を降りてから、水の1杯も口にせず寝こけていた自分に苦笑しながら、香耶は立ち上がった。

「よし、買い物に行こう」

観光して、美味しいものを食べて、この国で新しい思い出を作って。

受け取ったお金も、自分の中に残っているモヤモヤした気持ちも、全部全部、この旅行で使い果たすんだ。

えいえいおー!とばかりに拳を突き上げた香耶は、今の自分の恰好に気づき、慌てて、大きな窓にかかったカーテンを閉めた。