その現状を再確認の意味で繰り返しただけなのに、まだ学習の足りない香耶の頭は、勝手にそれに繋がる記憶……あの人の顔を思い出させてくる。
デート中の、ふとした笑顔。
面倒そうな、ため息。
香耶、と呼ぶ声。
10万なら、と言った声。
優しかった最初の夜。
あの夜の……胸の痛み。
交互に思い出される喜びと悲しみの感情に、香耶の頭がクラクラと揺さぶられて気持ちが悪くなってくる。
あれから何度か、こんな状態が起こり、香耶の心と体は大きくバランスを崩してしまった。
職場だろうが寝る前だろうが、ところ構わず思い出したくなんかない記憶が勝手に脳内再生されて、悲しみと怒りに支配される。
その苦しみは、何度味わっても間違いなく嫌なものなのに、頭の中のネジかなんかが緩んだみたいに、自分ではどうしようもできないのだ。
息苦しさを覚えた香耶は、先月運ばれた病院で教えられたことを思い出し、胸元を押さえ、絨毯に座りこんだまま、大きく深呼吸をする。