窓の外には、見慣れない茶色の街並み。
立ち並ぶレンガの建物、立体的な装飾と、英語の看板。
足元の通りを歩く人達の頭は、カラフルで、大きさもいろいろ。
「……そうだ……オーストラリアだよ……」
呆然とつぶやいて、座りこむと、大きく深いため息が吐き出された。
「……夢じゃなかった……」
2年月会っていた彼氏が、実は結婚していて。
プロポーズされるのかな、なんて、期待していた記念日の夜に、そのことを知らされて。
手切れ金なのか、10万出すと言われたこと。
「ああ、でも……」
さっきのアレは、夢だった。
ぶるっと震えた自分の体をぎゅっと抱きしめて。
心の中で、その事実を、丁寧に咀嚼して、ごくんと飲み込む。
彼とのことは、もう過去のこと。
今の香耶は、あの人から離れた、あの人の気配のない、ずうっと遠い場所にいる。
あの人を思い出させるものは全て、飛行機で10時間もかかる場所にあって、香耶の目には入らない。
彼と過ごした部屋の中で、過去の自分を思い出して自己嫌悪に苛まれることも、突然の訪問や連絡に緊張することも、周囲の目に怯えることも、今は……しなくていい。