歩道を歩く人は多いが、日本よりずっと広い歩道では、香耶も香耶の荷物も、それほど邪魔にはならないようだ。

周りに人がいないのを確認した香耶は、受け取った合皮の黒いバッグから、ホテル関係の用紙を取り出した。

「ヨシ!」

気合いを入れて歩き出すと、通行人は日本よりもスムーズに荷物を引く香耶を避けてくれた。

ちょっと拍子抜けの気分でたどり着いたのは、おじさんに言われた白い建物の前。
ガラスのドアと同じ透明なガラスの壁の一部にホテルの名前があった。

手にした用紙と見合わせて確認し、間違いない、と頷いた香耶がドアをくぐると、正面の壁を背にして、受付のようなカウンターがあった。

視線を動かせば、カウンターの横にはキャリーバッグなどの荷物がいくつか置かれている。

運ぶ人、は見当たらないけれど、ここに置けばいいのかな……

貴重品は、身に着けたバッグの中。
機内で手元に置いていた小さなバッグと、一緒に入っている。

けれど、持ってきたキャリーバッグの中には、滞在中の洋服が全部入っているわけで……

困ったな、と、立ち尽くすしかない香耶が顎に手を当てると、スーパーで荷物を運ぶような、高い金属の枠がついた台車を押して、肩幅の広い茶色の肌と目をした男性がやってきた。