トラックも停められそうな車寄せで停車した車の窓から、高いホテルの先端を見上げた香耶は、ほわあ、と少し気の抜けた声を漏らした。

かなり立派なホテルだから、お値段も、するんだろうな……

降りていく家族連れを見送っていると、小走りで戻ってきたおじさんが、香耶の方を見て言う。

「次ね」

女ひとりの香耶は、おじさんの記憶に残りやすかったらしい。

そのまま、ホテルの名前と名字の確認をされ、車を降りると、すぐに荷物を持ってきたおじさんが、さっと後ろの方を見て、香耶の荷物を歩道まで運んでくれた。

「ここ、あんまり停まってられないから」

そう断りを入れて、おじさんは数メートル先の建物を指さした。

「あの白い建物ね。ガラスの、前に、今、男の人が立っているところ。荷物は、受付の辺りで運ぶ人がいるから預けて」

簡単に告げられた言葉に頷くと、おじさんは、それじゃ、と手を上げ、小走りで車に戻っていった。

ひとり残された香耶は、去っていく車を見送ろうとしたけれど。

会社のロゴもない、その地味な車を他と見分けるのは難しく……すぐに見失ってしまった。