お辞儀も、丁寧なあいさつもなく、近所の人にでもするように、軽く手を上げて、くるっとこちらに向き直る。

驚くほどあっさりした挨拶を終えて、おじさんが戻ってくると、そのスライド式のドアが閉まるか閉まらないかのタイミングで、車が発進する。

わっ、ちょっと……せっかちすぎない?

びっくりしたのは香耶だけではないと思うけれど、おじさんは平気な顔で、手にしたファイルの内容を確認している。

「次は、ホリデイね。えー、松本さん」

1人仲間だった男性が下りていき、香耶の横が無人になる。

そこから次のホテルへの道で、曲がったのは1度だけ。

今度のホテルも、さっきのホテルや、窓の外の街並みで多く見られた黄色っぽい石の壁だった。
香耶が泊まるホテルの外観は、どんな感じだったろう……?

思い出そうとしてみたけれど、勢いだけで申し込んでしまった内容は、ほとんど頭の中に入っていない。

不安に駆られた香耶が、手のひらに嫌な汗をかき始めた頃、車は次のホテルに到着した。

今度のホテルは、今までと違ってかなり大きく、近代的な建物だった。

大通りから、少し横に入ったところで、周りに高い建物がないので、かなり目立つ。