なんてことのないように言って、あはは、とおじさんは笑ったけれど、当事者である香耶は全く笑えない。
オーストラリアって、治安のいい国だと聞いていたけれど……本当は違うの?
香耶の心中の問いに答えるように、おじさんはまた、さらりと言った。
「まあ、私、20年住んでるけど、撃たれたりとか、そういう危ない目にあったこと1度もないから」
大丈夫ですよ、と笑うおじさんに、香耶はフリーズしたように動きを止める。
いや、そんなこと……日本にいれば、多分、一生ないと思いますよ……
あまりの常識の違いに愕然とする香耶を乗せて、車はぐいぐいと強引に走る。
「そろそろ、着きますよ」
そう、おじさんが言って、数秒後。
車は道路脇に何台も駐車されている車の、あまり広くはない隙間の前で、ぐらん、と、みんなの体を揺らして停車した。
「はい、クレアホテル」
告げられたホテルの名前に、香耶の後ろの席でカップルが立ち上がった。
外に出ると、素早く降りたおじさんが、荷物を手渡し、名前を確認して、歩道の向こうを指さすのが見えた。
「あそこだから。うん、そう。はい、それじゃ」