"時計塔"という聞きなれない単語に、香耶が思い浮かべたのは、まだ子供の頃に何度も見た有名なアニメ映画。

1人暮らしを始めたばかりの魔女の女の子が、暮らしている街にあったっけ。

「遠かったので、見えなかったかもしれないけど、こっちと日本の時差は、1時間。それと今、シドニーはサマータイムで、もう1時間、進んでます。つまり、2時間の時差があって。今は、1時半ですね。時計のある人は、時間合わせておいた方がいいですよ」

"サマータイム"という言葉自体は聞いたことがあるような気がするけれど、どういうものなのか、香耶はよく知らない。

けれど、多分、飛行機のアナウンスで聞き洩らしていた情報を教えてくれたのは助かった。

「夜とか、店が閉まる時間に間に合わないと困るから」

確かに、それは困る。

香耶は、すぐに腕にしていた時計の針を調整し、2時間進め、話の続きを聞く。

「シドニーの治安は、わりといい方だと思うけど、日本に比べれば危ないところもあります。まあ、夜遅くに女性がひとりで歩いていれば、日本でも危険だろうしね。まあ、東京と同じくらいだと思ってくれればいいんじゃないかな」