一気に落ちかけた気分を、急ブレーキによる揺れが一瞬で払ってくれた。

「ちょっと、このへんは渋滞してますね。工事が遅れてて、ずっと渋滞で。路面電車が通る予定なんだけど、オーストラリア人は働くの嫌いなんでね。なかなか進まなくて、もう5年くらい、ずっと工事中なんですよ」

え?と、顔に出てしまったのは、香耶だけではなかったようで、おじさんは乗客達の顔を見回し、狙い通りとでもいうように、へらっと笑った。

「こっちでは、朝の9時とかから仕事始めて、大体4時とか、早いと3時くらいには終わっちゃいますからね。あんまり遅いんで、日本の企業が入って、それでけっこう進んだんですよ」

それはよかった、と思うけれども、目の前の道路には、まだ工事中を示しているらしい黄色の看板がつけられた金属製の囲いがある。

「日本人は真面目だからね、もう少しで、できるらしいよ」

確かに、日本の工事現場の方は夜も一生懸命働いている。

でも、オーストラリアでは工期が遅れても、大丈夫なのだろうか?

そう思った時、囲いの一部が開いて、工事関係者らしい作業着を着た人が中から出てきた。

今はランチタイムなのか、ちらりとのぞいた囲いの中に、人の姿は見えない。

こちらの工事現場というのは、どういう感じなのかわからないけれど。

完成はまだ遠いんじゃないかな、と香耶は思った。