そこで、おじさんは運転席の男性に短く声をかけた。

すぐに話は終わったのか、2言だけで、すぐこちらへ向き直る。

「先月あたりは、嵐で道が埋まったりしてたんですけどね。雨は、しばらく降らないと思います」

嵐?嵐って……台風ってこと?
道が埋まるって……さらっと言ったけど、けっこうな災害じゃない?

眉を寄せたところで、ぐらん、と体が揺れ、外を見れば、周囲は高い建物が立ち並んでいた。

市街地に入ったようで、渋滞とはいかないまでも、車通りの多い道に入ったことで速度が落ち、香耶は少しだけ腕の力を抜いた。

「天気のいい日が続くので、今年のビーチは混んでるみたいですね。サーフィンする人も多いし、泳いだり」

気持ちがよさそうな提案ではあるけれど、大勢の人がはしゃぐ中、1人で海水浴というのは、どう見ても寂しい。

少し沈んだ香耶だけれど、そもそも水着も持ってきていないのだから、海になど行かなくてもいい、と思い直す。

「まあ、泳がなくても、夕日がきれいで有名ですからね。人気がありますし、行ってみてもいいんじゃないかな」

夕日、と言われて、思い出すのは、何度も繰り返し眺めた、旅行本の、ハワイの夕焼け。