え? 日本人じゃないの?

驚いた香耶は、思わず声が出かけた口元を押さえ、まじまじと、おじさんの顔を見てしまう。

どう見ても日本人にしか見えない顔立ちけれど、ハーフか何かなのかな?

言葉は通じるだろうけど、ちょっと訊きづらい上に、訊かなくてもこまらないことなので、香耶はネームプレートから目をそらし、浮かんだ疑問はそっと胸の奥に押し込めることにした。

誰も声を出さないまま、立体的に交差した道をぐらんぐらん揺れながら走っていくと、高速道路のようなまっすぐな道に出る。

そこを走り始めると、それまで黙っていたおじさんがやっと口を開いた。

「はい、それでは、改めまして、ようこそ、シドニーへ。これから、皆さんのホテルに移動しますが、それまでに少し、こちらのお話をしますね」

お、と、興味を引かれたのは、香耶だけではなく、通路をはさんで横の席に座った男性も、いじっていたスマホから目を上げて、おじさんを見た。

「皆さん、空港を出て気づいたと思いますが、オーストラリアは今の季節、夏です。日本とは、逆の季節ですね。寒いところから来て、暑いので、びっくりしたかもしれませんが、今年はわりと過ごしやすい日が多くて。今週は、特に崩れないってことなので、観光にはちょうどいいですね」