取り上げて、よく見ようとすると、雑音としか認識できない言語が飛び交う中、男性の呼ぶ声がはっきりと耳に届いた。

「○○旅行~、○○旅行~」

香耶にとって、意味のわかる“言葉”は、日本語だけ。

耳を澄ませれば、周りの外国人達の声がすうっと遠のいていくのだから、人の体はすごいものだ。

そして、声の方向を見れば、さっき見かけた人達より少し増えた、10人ほどの日本人旅行者が声の方へ動いていて、香耶は慌てて、その流れを追うように駆け戻る。

「1,2,3……」

自分の周りに集まって来た旅行者の人数を数えていたおじさんは、最後に駆けよってきたきた香耶を見ると、よし、と小さくつぶやいた。

「はい、じゃあ行きますよ~、はぐれないでくださいね~」

にこにこと愛想よく言ったおじさんは、会社の旗をパタパタ振りながら、香耶が今来た方向へと進み始める。

それについて行こうと、大きな荷物を持った日本人の団体がゾロゾロと動き始めると、周囲の人が香耶達の方を見た。

おじさんの声が大きいせいか、日本人が珍しいのか……

現地の人らしい外国人の物珍し気な視線が集まる中、子供の遠足のような、その後ろについて行くのはちょっと恥ずかしい気がした。

かと言って、ついて行かないわけにも行かない。