学校で6年、英語の授業は受けたし、テストの点数もそれほど悪くはなかったけれど、学校以外で外国人と話す機会はなかった。

高校を卒業して、つまりは英語を学ばなくなって、約10年が過ぎた今となっては、その内容は香耶の脳の奥の、これまた奥の方に追いやられてしまったのだろう。

英語のできる誰かと一緒に来ればよかったのかもしれないけれど……

そう思った次の瞬間に、思い浮かぶのは、あの人の顔。

ふるふる、と首を振って、香耶は、その顔を追い出す。


付き合って、2年。

いつ会えるかわからない彼との予定を中心にした生活を続けるうちに、学生時代の友人とは少し、疎遠になった。

時々、連絡することはあるし、彼氏がいる、と知っている子も数人いる。
だけど、今回のことを話した相手はいないし、そもそも、なんと話したものか、香耶にはさっぱりわからない。

職場には、あの人のことを知っている人もいるし、彼と香耶が付き合っていたと、うすうす感づいている人もいるかもしれないから、今回の旅行のことも知らせていない。

あの週末明けは、どうにか出勤したけれど、仕事に集中できずに早退し、その次の日からは休みを取った。
数日休んだところで、上司から連絡が来て、体調不良を理由に、とりあえず、しばらくの休暇をもらった。

その後の年末年始の休みを足せば、1カ月以上。