到着したら、出口に旅行会社の旗を持った人がいるから、そこに行けばホテルまで送ってくれる、と旅行会社の担当さんは言っていた。

空港がどのくらいの大きさかは知らないけれど、とにかく、見える場所にいる、という旅行会社の人の言葉を香耶は信じるしかない。

四苦八苦した機内の長い時間を思い、香耶は少しだけ疑心暗鬼になりながら手近な荷物をまとめる。

小さなバッグに入っている荷物は、ほとんどない。

さっき電源を切ったスマホとハンカチ、日焼け止めに、リップと財布、鍵。

もちろん、搭乗手続きのカウンターで預けたキャリーケースもあるので、荷物がこれだけ、ということではないけれど。

こんな小さなバッグだけをさげて飛行機に乗るのは、香耶にとって初めてのことだった。

普段は会社に行くのにも、大き目のバッグを持ち、いろいろな女の必需品を待機させている。
けれど、今回の旅行の荷物をまとめている時、それらのことは全く頭に浮かばなかったのだ。

なぜなのか、はっきりとはわからないけれど。

もしかしたら、女として装う、ということを、今は全く考えられないからなのかもしれない。

考えてみれば、ここしばらくメイクもしていない。

そこで、香耶は気づく。

今も、香耶はすっぴんで、寝起きの洗顔もしていない……


思わず触れた頬に、ゆうべの跡があった気がして、香耶は慌てて立ち上がった。